2013年5月29日水曜日

「久しぶりに故郷に帰ってみた」の英訳について



                                                         
久しぶりに故郷に帰ってみた。以前、小学校があったところに大きなビルが建てられているのを見てびっくりした。(成城大・法)
                                                         
【解答例】The other day I went to my hometown for the first time in many years, but I was surprised to see there was a tall building where our elementary school used to be. ―大矢復『最難関大への英作文』(桐原書店), p. 15
                                                         

大矢は言う。

「久しぶりに訪れた」には過去を表す語句を補う
つまり、

過去形は過去を表す語句と一緒に使うのが原則である。本問では「久しぶりに帰ってみた」のが「いつ?」なのかは書かれていない。しかし、たとえ日本語の問題文になくても、必ず何らかの語句を補うべきである。the other day「先日」、a few days ago「数日前」などが考えられる。

と言うのである。

 <必ず何らかの語句を補うべきである>という「べき論」であれば、補わなくてもよいとも言えるのであるから、取り立ててポイントだと言う必要はない。ポイントだと特筆しながら<べきである>としか言わないのは、逃げを打っているようにしか思えない。

 <久しぶりに故郷に帰ってみた>のように時を省いた過去をLeechは「不定過去」と呼んでいる。

不定過去を意味する現在完了の場合には特定の時点が表現されないのに対して、単純過去時制を適切に使うには(BEでは)通常過去の明確な基準点(POINT OF ORIENTATION)('then')を表現することが必要である。―G.N.Leech『意味と英語動詞』(大修館書店)、p. 62

 問題文は明確な過去時が指定されていないのであるから、Leechに従えば過去形ではなく現在完了形を用いるべきだということになる。

「~してみた」のような言い方はどこか「天声人語」的な感じがしたので調べてみたら、次の文を見付けた。

 企業の首脳が、年頭のあいさつで新しい年の抱負や姿勢を明らかにする。どういう演説をしたのだろう、といくつかの演説草稿を改めて読んでみた。
  In their New Year addresses to employees, company presidents outlined their aspirations and stands for the coming year.  I have gone over the texts of their speeches to see what they said.
―『天声人語 ’91春の号』(原書房)、pp. 22-23:1991年1月12日付

「神の国」発言は、森嘉朗首相自身も会員だった「神道政治連盟国会議員懇談会結成30周年記念祝賀会」のあいさつで出た。テープを起こすと、あいさつ全体は400字詰め原稿用紙で訳10枚。あらためて全文を読んでみた。

Prime Minister Yoshiro Mori's controversial statement describing Japan as a "divine country" was made when he addressed a 30th anniversary meeting of a group of Diet members affiliated with the Shito Political League. He had formerly belonged to the group.  The transcription of the speech fills about 10 pages of 400-character manuscript paper. I have read the full text. 
『天声人語 2000夏 vol.121』(原書房)、p. 108:2000年5月26日付

が、現在完了はイギリス英語的である。

完了形のなかでも現在完了形は、会話、手紙、新聞、テレビ・ラジオの報道においてよく使われるが、それでも過去時制が現在完了形の数倍の頻度で用いられる。地域別に見ると、イギリス英語では現在完了形が使われることが多いのに対して、アメリカ英語では過去時制が使われることが多い。―柏野健次『テンスとアスペクトの語法』(開拓社)、p. 156

よって、不定過去の導入文を現在完了形を用いずに過去形で済ませてしまうことも少なくない。

I was prepared to dislike Max Kelada even before I knew him.  The war had just finished and the passenger traffic in the ocean-going liners was heary.(私は知り合う前からマックス・ケラダを嫌う用意があった。戦争がちょうど終わり、大洋の連絡客船は満杯だった)―W. Somerset Maughtam, MR KNOW-ALL

 解答例を吟味してみよう。まず、I went to my hometownでは「帰る」のニュアンスが出ない。よってI went back to my hometownないしはI returned to my hometownのように言うべきである。

 それよりもこれでは日本語の「帰ってみた」の「みた」が訳しきれていない。「みた」は無視してよいと判断したのだろうか。訳すとすれば、try ~ingを用いてI tried returning to my hometown のように言うところか。

 次に、日本語が2文になっているのをわざわざ逆接の接続詞butを用いて1文にしているのも気に掛かる。1文にしようとするから、butなのかandなのかを考えなければならなくなるのであって、ここは素直に2文で書けばよいように思われる。

 最大の問題はto see there was a tall buildingの部分である。seeの目的語が(ここではthatが省略されているが)that節の場合、seeの意味は対象を「見る」ではなく存在を認識する、つまり「分かる」の意味になってしまう。したがって、ここはthere構文は使わずto see a tall buildingとすべきである。否、大きなビルは必ずしもノッポとは限らないので、to see a large buildingとすべきであろう。

                                                          

【池内試訳】I have returned to my hometown for the first time in many years.  I was surprised to see a large building where the elementary school used to be.

                                                          


 一方、大矢訳を私が採点すると次のようになろう。

The other day I went to my hometown for the first time in many years, but I was surprised to see
 -1(→トル) -1(→went back to)               (→years. I)
there was a tall building where our elementary school used to be.  (7/10点)
-1
(→トル)


P.S. 直接解答に関係しないが、大矢が第1のポイントとしている部分が引っ掛かった。

「机の上には何があるのだろう?」という質問に対して「1冊の本がある」と伝えたいときは…there is 構文を使う。(p. 14

 大矢は直接例文を挙げていないが、受験英語参考書によく見られる次のような対応関係を考えているのであろう。

What is on the desk? There is a book (on the desk).

が、これはよくある誤解である。

「木の下に何がありますか」「大きなベンチがあります」
"What is [
×are] under the tree?" "A big bench (is)."(☆(1)この場合、There is a big bench .... は不自然.(2)答えの文のisは《話》では通例省略される /  "What is there under the tree?" "There's a big bench."
―グランドセンチュリー和英辞典(三省堂)第2版

4 件のコメント:

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  2. 試訳の第一文についてですが、tryを使うのは違和感があります。

    tryはtry hardという表現に代表されるように、「努力する」の意味を含みます。しかし故郷に帰ることは、普通、努力を要さないからです。



    ・ではどのように英訳すれば、原文に忠実で、しかも英語として自然であるかを考えます。

    (ⅰ)googleで実験
    このやり方には批判もあるかもしれませんが、googleを使って実験する方法があります。調べたい語句を、引用符付きで検索すると、件数が表示されますので、件数の多さによって、ポピュラーな表現がわかります。

    (1)"went to my hometown" 21,600,000 results
    (2)"went back to my hometown" 2,180,000 results
    (3)"returned to my hometown" 480,000 results
    (4)"tried returning to my hometown" 2 results

    以上により、やはり(4)は英語として厳しいのではないかと思います。

    (ⅱ)補助動詞「みる」は翻訳可能か
    ・この問題文においては、「みる」は無視して構わないのではないでしょうか。実際、文意への影響は非常に小さいと思われます。

    しかし、補助動詞「みる」を英文に反映させる方法も、無いわけではありません。例えば

    昨日秋葉原で買い物してみた。
    I just went shopping in Akihabara.

    ちょっとこの本を読んでみなよ。
    Just read this book.

    のようにjustを使う方法がありますし、他にも

    去年アメリカで生活してみた。
    I lived in America for a while last year.

    のように、副詞を適宜補えば、うまく英訳できます。



    ・問題文についてですが、「故郷に帰ってみた」と補助動詞「みる」がついているのは、「故郷にほんのしばらく滞在した」ということを強調するためでしょう。

    単に「故郷に帰った」だと、文脈によっては、「余生を故郷で過ごす」という意味で使われることもあります。

    補助動詞「みる」を英文に再現する場合は、「ほんのしばらくの間」という意味の副詞を補うとよい。それは、justを使えば十分だと思います。


    *以上のことを踏まえて訳します。
    I have just returned to my hometown for the first time in a long time(またはafter a many-year absence).I was surprised that(またはbecause) there was a big building where my elementary school used to be.
    これでいかがでしょうか。

    ちなみに英語では時制は、過去⇒未来の流れで文章を展開するのが原則です。ただし、現在完了形(特に完了・結果用法)の文のあとに、過去形の文を置くことは可能です。このとき過去形の文は、現在完了形の文を補足します。

    例文
    I've received the small box.It was delivered this evening.

    (source:http://www.alc.co.jp/eng/grammar/kaisetsu/grammar15.html)


    ※ところで、Where is on the desk?という文章が正しいとは思えません。What is on the desk?と言うべきではないでしょうか。

    例によってgoogle検索すると、やはりwhatを使うほうが圧倒的多数でした。

    主語または目的語を尋ねる場合はwhatを使うべきだと思います。(その意味で、Where are you from?は例外的な慣用表現だといえますが。)

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    1. コメント有難う御座います。

      <tryはtry hardという表現に代表されるように、「努力する」の意味を含みます>

      とのことですが、例えば、COLLINS COUBUID ENGLISH USAGEには、

      If you try to do something, you make an effort to do it.

      If you try doing something, you do it in order to find out how useful, effective, or enjoyable it is.

      との説明が見られ、

      try to doは「…しようとする」努力を表すのに対して、try doingは「実際に…してみる」の意味でつかうことが多い(ラーナーズ・プログレッシブ和英辞典)

      ということですから、<故郷に帰ることは、普通、努力を要さない>ということでtry returningと言えないということにはならないように思います。

      ただ、私もtry returningとするのに違和感があることも事実ですので、別の角度からの検討が必要であろうとは思っています。

      ネイティブスピーカーの意見も聞いてみたいところです。

      またWhere is on the desk? のWhereはご指摘の通りWhatの誤植です。修正させていただきます。

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  3. 一箇所、間違えました。「建てられているのを見てびっくりした」の「見て」の部分を訳し忘れました。


    したがって後半の文は、以下のような訳が考えられると思います。

    I was surprised to see/find a big building (またはbecause I saw/found a big building) where my elementary school used to be.

    ただし、「建てられている」という日本語が、やや気になります。

    これを「建設中である」と解釈して、"saw a big building being constructed"とか"saw a big building under construction"と英訳してもあながち間違いではないでしょうが、ここでは既に「建っている」という意味で捉えました。

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