一昔前の文法の教科書には次のような関係代名詞の一覧表が掲げられていた。
先行詞
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主格
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所有格
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目的格
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人間
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who
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whose
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whom
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物
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which
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whose, of which
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which
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人間・物
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that
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―
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that
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江川泰一郎:A NEW STEP to English Grammar(東京書籍)
一方、現在の教科書は次のようなものである。
先行詞
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関係代名詞
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主格
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所有格
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目的格
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人
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who
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whose
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who(m)
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人以外
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which
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whose
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which
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人・人以外
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that
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―
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that
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総合英語Forest Framework English Grammar in 23 Lessons【6th edition】(桐原書店)
違いは、人を先行詞とする関係代名詞目的格が “whom” から “who(m)” に変わっているということである。つまり、目的格who もOKとなっているということである。
専門的な文法書では目的格whoも使用可能であることはとっくの昔に指摘されてきたことであるが、保守的というか臆病というか、日本の英語教育の現場でこれを指導することが避けられてきた。が、今や目的格whoも日本の英語教育における市民権を得たと言ってよいだろう。それどころか、目的格whomの重苦しさを指摘するものも少なくない。
(1) whomは文章体。目的格の働きをする場合でもwhoが用いられることが多い。― 同上、p. 66
(2) whomはやや古くかたいので、日常的には、かわりにwhoやthatを使ったり省略することが多い。― CROWN English Grammar 27 Lessons(三省堂)、p. 56
(3) whomの形は、「前置詞+whom」以外では、通例用いられず、代わりにwhoが用いられる。 ― 安井稔『英文法総覧』(開拓社)、p. 250
河上道生・広島大名誉教授が『英語参考書の誤りとその原因をつく』(大修館書店)で、
(4) 英米の文法書にのるようになった関係代名詞whom<formal>に代わるwho<informal>を高等学校で教えるべき時はすでに到来している。― p. 475
と言われてから既に20年あまりが過ぎている。
(5) 【問題例2.8.37a】出題ミス その37
She was a girl ( ) it was difficult to know well.
① which ② where ③ who ④ whose ⑤ whom (東海大)
【コメント】伝統的な規範文法では、この場合whomが正しいと考えられてきた。しかし、現代英語ではwhoのほうがよく使われている。この程度のことは、英語の教師ならとっくに知っているはずのことである。実際、何十年も前から目的語としてwhoを用いた例は英米の文法書に見られる。したがって、出題者は無知、怠慢のそしりを免れない。
念のために説明しておくと、whomは、(a)特に公式の文書で、(b)前置詞の直後で使われる。だから、現代英語では下の(1)~(3)のように言うのが標準的であろう。
(1) the girl I spoke to
(2) the girl who I spoke to
(3) the girl to whom I spoke to
(2) the girl who I spoke to
(3) the girl to whom I spoke to
なお、the girl whom I spoke toも可能ではあるが、普通ではないし、whomという堅苦しい語と、前置詞を文末に置くという日常会話での言い方が混合されたぎこちない言い方である。―Gareth Watkins・河上道生・小林功『これでいいのか大学入試英語』(大修館書店)、pp. 180-181
以上は高校英語および大学入試における問題であった。これを中学英語、高校入試に置き換えると、目的格whoの容認度は低いと言わざるを得ない。というのは、文部科学省が定めた「指導要領」には、目的格のwhoはおろかwhomも指導範囲に入っていないからである。関係代名詞が省略された形(「接触節」ともいう)を用いればこと足りるし、関係代名詞が必要なら、オールマイティーのthatを用いればよいという考え方をとっているため、目的格whoが認められるかどうかが検討されるところまでいっていないのである。
ということもあって、私が目にした高校入試問題の実例は残念ながら次の1例に留まる。
(6) Within shopping centers there are many people there who they do not know.
(ショッピングセンターの内側には、自分たちが知らない人がたくさんいる)
【京都女子高2010】
一方、関係代名詞whomを答えさせる次のような問題もある。
(7) She is a teacher ( ) all the students like.
ア which イ whom ウ whose エ what 【大産大附高2012】
が、指導要領を逸脱し、なおかつ使用頻度を無視するこのような出題に私は大いに首を傾げる。
(8) a. She is a teacher all the students like.
b. She is a teacher that all the students like.
c. She is a teacher who all the students like.
d. She is a teacher whom all the sudents like.
使用頻度はaが最も高く、b、cと順に続きdが最も低い。さらにaとbは指導要領内、cとdは指導要領外の表現である。にもかかわらず、どうしてdのwhomを答えさせる必要などあるのだろうか。
高校入試は単に中学英語の総まとめテストではなく、高校英語への橋渡しの役割もあるという考え方もあるだろう。したがって、必ずしもすべてを指導要領内の内容だけで作成する必要はないとも言える。が、果たして関係代名詞目的格whomはそういった橋渡し役を担うべきものと言えるだろうか。
「前置詞+whom」を別にすれば、私はこのwhomの必要性をほとんど感じない。つまり、高校入試で問わなければならない理由は見当たらないということである。
(9) She is a teacher ( who , whom ) all the students like.
のような答えようのない問題でないことだけが救いである。
> (3) the girl to whom I spoke to
返信削除文末のtoは消し忘れですね。