2013年12月10日火曜日

第4文型(SVOO)の受動文について

(1) 
主語
動詞
目的語
目的語
He
gave
me
the book.

のように目的語2つとる第4文型(SVOO)の文は受動文を2つ作ることができる」と説明されることが少なくないのではないだろうか。実際、そのように書かれている文法書や参考書も少なくない。名著の呼び声高い『英文法解説』はその代表格である。

(2) 江川泰一郎著『英文法解説』(金子書房)改訂三版
S+V+IO+DO a) 直接目的語(DO)を主語とする受動態と b) 間接目的語(IO)を主語とする受動態とができる。
My aunt gave me this watch.
  a) This watch was given (to) me by my aunt.
  b) I was given this watch by my aunt.
(参考)同様の記述が見られる手元の高校生向け参考書山口俊治著『コンプリート高校総合英語』(桐原書店)、和田稔編集『SEED総合英語』(文英堂)新訂版、松山正男監修『完成チェック新総合英語』(中央図書)、塩澤利雄監修、時岡裕純著『フォワード新高校英語』(桐原書店)、伊勢山芳郎監修『スマッシュ高校新総合英語』(研数書院)

 私が気になるのは

(3) This watch was given (to) me by my aunt.

のように前置詞toに括弧を付けてしまっている点である

(4) 小西友七著『英語のしくみがわかる基本動詞24』(研究社)
 8.25 The book was given (to) John.
    その本はジョンに与えられた。
この第4文型の受動文は、O2をSにした場合、つまり「本は誰に与えられたか」ということが話題になっている時、こうした形をとります。
 ところで、この例文でtoがカッコに入っているのは、toをつけてもつけなくてもどちらでもよいということだ、と考えていませんか? これは「どちらでもよい」のではなく、「つける場合とつけない場合がある」と解釈して下さい。どのような時にtoが必要で、どのような時にtoをつけなくてよいのかは、その受動文の元になった文を考えればわかります。
 8.26 The book was given John.
    ←I gave John the book.
 8.27 The book was given to John.
    ←I gave the book to John.
すでに述べたように、8.27はJohnを強調した言い方です。「誰に与えられたか」という時、多くの場合O1に重点が置かれていますから、8.27の形が普通なのです。

 つまり、能動文と受動文の対応関係は次のように考えるべきである。

(5) a. My aunt gave me this watch.
     =I was given this watch by my aunt.
    b. My aunt gave this watch to me.
     =This watch was given to me by my aunt.

ここで確認すべきは、(5.b)は能動文がto meとなっているから、受動文もto meとなるのであって、能動文にtoがないのに受動文にtoが発生するのは理屈からいってもおかしいということである。

(6) My aunt gave me this watch.
   ≠This watch was given to me by my aunt.

したがって、

(7) My aunt gave me this watch.
     This watch was given (to) me by my aunt.

のように表記するのは誤りだと言うべきであろう。

 私は「能動文の動詞の直の語が受動文の主語となる」と一般化できると考えている。

(8) a) He gave his son the book.  → b) His son was given the book by him.
     c) He gave the book to his son. → d) The book was given to his son by him.

このように考えれば、(8.a)のthe bookは動詞の直後の語ではないので受動文の主語にはなれないことが分かるだろう

 ただし、「人目的語」(間接目的語)が人称代名詞のときは、まれに第4文型の「物目的語」(直接目的語)が受動文の主語となる場合がある。

(9) He gave me the book. → The book was given me by him.

これは、動詞と人称代名詞が「群動詞」のようにとらえられて、

(10)  
主語
動詞
目的語
He
gave me
the book.

のように第3文型(SVO)のように見なされることで起こると考えられるが、特異な現象なので、混乱を避ける意味でも中学高校生は無視してよい知識だと思われる。

(11) 小西友七編『英語基本動詞辞典』(研究社出版)
‘give O1 O2’ のO1‘give O2 to O1 ’ のO2 を主語にした受身形が普通:(i) The boy was given a present. (ii) A present was given to the boy.[cf. Palmer, Verb2, pp. 83-84](中略)‘give O1 O2’ のO2を主語にした受身形、(iii) A present was given the boy. も考えられるが、この表現は非常にまれである。

2013年9月29日日曜日

関係代名詞目的格 who について

一昔前の文法の教科書には次のような関係代名詞の一覧表が掲げられていた。

先行詞
主格
所有格
目的格
人間
who
whose
whom
which
whose, of which
which
人間・物
that
that
江川泰一郎:A NEW STEP to English Grammar(東京書籍)

一方、現在の教科書は次のようなものである。

先行詞
関係代名詞
主格
所有格
目的格
who
whose
who(m)
人以外
which
whose
which
人・人以外
that
that
総合英語Forest Framework English Grammar in 23 Lessons6th edition】(桐原書店)

違いは、人を先行詞とする関係代名詞目的格が whom から who(m) に変わっているということである。つまり、目的格who もOKとなっているということである。

 専門的な文法書では目的格whoも使用可能であることはとっくの昔に指摘されてきたことであるが、保守的というか臆病というか、日本の英語教育の現場でこれを指導することが避けられてきた。が、今や目的格who日本の英語教育における市民権を得たと言ってよいだろう。それどころか、目的格whomの重苦しさを指摘するものも少なくない。

(1) whomは文章体。目的格の働きをする場合でもwhoが用いられることが多い。― 同上、p. 66
(2) whomはやや古くかたいので、日常的には、かわりにwhothatを使ったり省略することが多い。― CROWN English Grammar 27 Lessons(三省堂)、p. 56
(3) whomの形は、「前置詞+whom」以外では、通例用いられず、代わりにwhoが用いられる。 ― 安井稔『英文法総覧』(開拓社)、p. 250

 河上道生・広島大名誉教授が『英語参考書の誤りとその原因をつく』(大修館書店)で、

 (4) 英米の文法書にのるようになった関係代名詞whomformal>に代わるwhoinformal>を高等学校で教えるべき時はすでに到来している。― p. 475

と言われてから既に20年あまりが過ぎている。

(5) 【問題例2.8.37a】出題ミス その37 
   She was a girl (      ) it was difficult to know well.
  ① which  ② where  ③ who  ④ whose  ⑤ whom  (東海大)
【コメント】伝統的な規範文法では、この場合whomが正しいと考えられてきた。しかし、現代英語ではwhoのほうがよく使われている。この程度のことは、英語の教師ならとっくに知っているはずのことである。実際、何十年も前から目的語としてwhoを用いた例は英米の文法書に見られる。したがって、出題者は無知、怠慢のそしりを免れない
 念のために説明しておくと、whomは、(a)特に公式の文書で、(b)前置詞の直後で使われる。だから、現代英語では下の(1)(3)のように言うのが標準的であろう。
 (1) the girl I spoke to
 (2) the girl who I spoke to
 (3) the girl to whom I spoke to
 なお、the girl whom I spoke toも可能ではあるが、普通ではないし、whomという堅苦しい語と、前置詞を文末に置くという日常会話での言い方が混合されたぎこちない言い方である。Gareth Watkins・河上道生・小林功『これでいいのか大学入試英語』(大修館書店)、pp. 180-181          

 以上は高校英語および大学入試における問題であった。これを中学英語、高校入試に置き換えると、目的格whoの容認度は低いと言わざるを得ない。というのは、文部科学省が定めた「指導要領」には、目的格のwhoはおろかwhomも指導範囲に入っていないからである。関係代名詞が省略された形(「接触節」ともいう)を用いればこと足りるし、関係代名詞が必要なら、オールマイティーのthatを用いればよいという考え方をとっているため、目的格whoが認められるかどうかが検討されるところまでいっていないのである。

 ということもあって、私が目にした高校入試問題の実例は残念ながら次の1例に留まる。

(6) Within shopping centers there are many people there who they do not know.
(ショッピングセンターの内側には、自分たちが知らない人がたくさんいる)
                           【京都女子高2010
 一方、関係代名詞whomを答えさせる次のような問題もある。

(7) She is a teacher (      ) all the students like.

 ア which  イ whom  ウ whose  エ what  【大産大附高2012

が、指導要領を逸脱し、なおかつ使用頻度を無視するこのような出題に私は大いに首を傾げる。

(8)   a. She is a teacher all the students like.
       b. She is a teacher that all the students like.
     c. She is a teacher who all the students like.
     d. She is a teacher whom all the sudents like.

使用頻度はaが最も高く、bcと順に続きdが最も低い。さらにabは指導要領内、cdは指導要領外の表現である。にもかかわらず、どうしてdwhomを答えさせる必要などあるのだろうか。

 高校入試は単に中学英語の総まとめテストではなく、高校英語への橋渡しの役割もあるという考え方もあるだろう。したがって、必ずしもすべてを指導要領内の内容だけで作成する必要はないとも言える。が、果たして関係代名詞目的格whomはそういった橋渡し役を担うべきものと言えるだろうか。

「前置詞+whom」を別にすれば、私はこのwhomの必要性をほとんど感じない。つまり、高校入試で問わなければならない理由は見当たらないということである。

(9) She is a teacher ( who , whom ) all the students like.

のような答えようのない問題でないことだけが救いである。

2013年7月13日土曜日

the 最上級 of the two


                                        
She bought (        ) of the two books.(亜細亜大)
    the cheaper ② cheapest ③ cheaper ④ the cheapest
風早寛『英文法・語法問題GRAMMAR MASTER』(Z会出版)
                                        
解答は①となっているが、これは先入見に基づく決め付けである。『ジーニアス英和辞典G4』(大修館書店)には次のような記述が見られる。

the older [《略式》oldest ] of the two boys 2人のうちの年上の少年
Look at these two watches.  Which is the cheaper (of the two)?ここに時計がありますが、どちらが安いですか《▶of the two がなくてもこの意味が含まれる;《略式》ではthe+最上級 も用いられる》

であれば、④のthe cheapestも正解でなければならない。

 河上道生『英語参考書の誤りを正す』(大修館書店)は、イエスペルセンなどの文法書を引いてthe 最上級 of the two が用いられることを指摘し、

参考書は2つのものの比較に最上級も使われることを書くべきであり、教師は選択問題として、
 She is the (taller, tallest) of the two.
を出題したり、正誤問題として、
 He is the youngest of the two brothers.
などを出題すべきではない。 ― p. 283

と述べている。

また、the 比較級[最上級]+of the twoにおいて、比較級[最上級]の前のtheが落ちることがあることにも留意が必要である。

If two things of exactly the same kind are being compared, we can use the before a comparative in formal style:
  Which is (the) longer? (of the two coats)
  The gray coat is (the) longer (of the two coats.)
L. G. Alexander, Longman English Grammar6.27.1
【訳】まさに同種の2つのものが比較されているとすれば、正式な文体では比較級の前にtheを用いることができる:
 (その2着のコートのうちで)どちらの方が長いですか。
グレーのコートの方が(その2着のコートのうちで)長いです。

Informally, we sometimes use the superlative instead of a comparative when we are comparing two people or things:
  Who’s the most reliable, Frank or Alan?
Similarly, the is sometimes dropped, especially after which?:
  Which is best?  The red one or the green one?
And when the superlative is in front of a to-infinitive:
  I think it’s safest to overtake now. ―ibid, 6.28
【訳】略式では、2つの人や物を比べる際、比較級の代わりに最上級が用いられることがある:
  フランクとアレンではどちらの方が頼りになりますか。
同様に、theは、特にwhichの後で落ちることがある:
  どちらの方がいいですか。赤い方ですか、緑色の方ですか。
そして最上級がto-不定詞の前にあるとき:
  今追い付く方が無難だと思います。

2013年5月29日水曜日

「久しぶりに故郷に帰ってみた」の英訳について



                                                         
久しぶりに故郷に帰ってみた。以前、小学校があったところに大きなビルが建てられているのを見てびっくりした。(成城大・法)
                                                         
【解答例】The other day I went to my hometown for the first time in many years, but I was surprised to see there was a tall building where our elementary school used to be. ―大矢復『最難関大への英作文』(桐原書店), p. 15
                                                         

大矢は言う。

「久しぶりに訪れた」には過去を表す語句を補う
つまり、

過去形は過去を表す語句と一緒に使うのが原則である。本問では「久しぶりに帰ってみた」のが「いつ?」なのかは書かれていない。しかし、たとえ日本語の問題文になくても、必ず何らかの語句を補うべきである。the other day「先日」、a few days ago「数日前」などが考えられる。

と言うのである。

 <必ず何らかの語句を補うべきである>という「べき論」であれば、補わなくてもよいとも言えるのであるから、取り立ててポイントだと言う必要はない。ポイントだと特筆しながら<べきである>としか言わないのは、逃げを打っているようにしか思えない。

 <久しぶりに故郷に帰ってみた>のように時を省いた過去をLeechは「不定過去」と呼んでいる。

不定過去を意味する現在完了の場合には特定の時点が表現されないのに対して、単純過去時制を適切に使うには(BEでは)通常過去の明確な基準点(POINT OF ORIENTATION)('then')を表現することが必要である。―G.N.Leech『意味と英語動詞』(大修館書店)、p. 62

 問題文は明確な過去時が指定されていないのであるから、Leechに従えば過去形ではなく現在完了形を用いるべきだということになる。

「~してみた」のような言い方はどこか「天声人語」的な感じがしたので調べてみたら、次の文を見付けた。

 企業の首脳が、年頭のあいさつで新しい年の抱負や姿勢を明らかにする。どういう演説をしたのだろう、といくつかの演説草稿を改めて読んでみた。
  In their New Year addresses to employees, company presidents outlined their aspirations and stands for the coming year.  I have gone over the texts of their speeches to see what they said.
―『天声人語 ’91春の号』(原書房)、pp. 22-23:1991年1月12日付

「神の国」発言は、森嘉朗首相自身も会員だった「神道政治連盟国会議員懇談会結成30周年記念祝賀会」のあいさつで出た。テープを起こすと、あいさつ全体は400字詰め原稿用紙で訳10枚。あらためて全文を読んでみた。

Prime Minister Yoshiro Mori's controversial statement describing Japan as a "divine country" was made when he addressed a 30th anniversary meeting of a group of Diet members affiliated with the Shito Political League. He had formerly belonged to the group.  The transcription of the speech fills about 10 pages of 400-character manuscript paper. I have read the full text. 
『天声人語 2000夏 vol.121』(原書房)、p. 108:2000年5月26日付

が、現在完了はイギリス英語的である。

完了形のなかでも現在完了形は、会話、手紙、新聞、テレビ・ラジオの報道においてよく使われるが、それでも過去時制が現在完了形の数倍の頻度で用いられる。地域別に見ると、イギリス英語では現在完了形が使われることが多いのに対して、アメリカ英語では過去時制が使われることが多い。―柏野健次『テンスとアスペクトの語法』(開拓社)、p. 156

よって、不定過去の導入文を現在完了形を用いずに過去形で済ませてしまうことも少なくない。

I was prepared to dislike Max Kelada even before I knew him.  The war had just finished and the passenger traffic in the ocean-going liners was heary.(私は知り合う前からマックス・ケラダを嫌う用意があった。戦争がちょうど終わり、大洋の連絡客船は満杯だった)―W. Somerset Maughtam, MR KNOW-ALL

 解答例を吟味してみよう。まず、I went to my hometownでは「帰る」のニュアンスが出ない。よってI went back to my hometownないしはI returned to my hometownのように言うべきである。

 それよりもこれでは日本語の「帰ってみた」の「みた」が訳しきれていない。「みた」は無視してよいと判断したのだろうか。訳すとすれば、try ~ingを用いてI tried returning to my hometown のように言うところか。

 次に、日本語が2文になっているのをわざわざ逆接の接続詞butを用いて1文にしているのも気に掛かる。1文にしようとするから、butなのかandなのかを考えなければならなくなるのであって、ここは素直に2文で書けばよいように思われる。

 最大の問題はto see there was a tall buildingの部分である。seeの目的語が(ここではthatが省略されているが)that節の場合、seeの意味は対象を「見る」ではなく存在を認識する、つまり「分かる」の意味になってしまう。したがって、ここはthere構文は使わずto see a tall buildingとすべきである。否、大きなビルは必ずしもノッポとは限らないので、to see a large buildingとすべきであろう。

                                                          

【池内試訳】I have returned to my hometown for the first time in many years.  I was surprised to see a large building where the elementary school used to be.

                                                          


 一方、大矢訳を私が採点すると次のようになろう。

The other day I went to my hometown for the first time in many years, but I was surprised to see
 -1(→トル) -1(→went back to)               (→years. I)
there was a tall building where our elementary school used to be.  (7/10点)
-1
(→トル)


P.S. 直接解答に関係しないが、大矢が第1のポイントとしている部分が引っ掛かった。

「机の上には何があるのだろう?」という質問に対して「1冊の本がある」と伝えたいときは…there is 構文を使う。(p. 14

 大矢は直接例文を挙げていないが、受験英語参考書によく見られる次のような対応関係を考えているのであろう。

What is on the desk? There is a book (on the desk).

が、これはよくある誤解である。

「木の下に何がありますか」「大きなベンチがあります」
"What is [
×are] under the tree?" "A big bench (is)."(☆(1)この場合、There is a big bench .... は不自然.(2)答えの文のisは《話》では通例省略される /  "What is there under the tree?" "There's a big bench."
―グランドセンチュリー和英辞典(三省堂)第2版